再体験症状治療

良かったことや楽しかったことは、すぐ忘れてしまうのに、嫌な出来事はいつまでも覚えている。

無意識のうちに何度も思い出し、その状況を脳内でリプレイすることにより、望まない結果を回避する方法を模索するのだという。

そして、何度も思い出すことで「嫌な出来事」は、強く意識に残ってしまうのだ。
反復学習と同じ理屈だ。

昔読んだ本に書いてあった。

だから、嫌な出来事を思い出しそうになったときは、思考を止めるようにしている。
早く忘れるためにはそうすべきなのだ。

それなのに、考えてしまう。


交流戦とそれに絡んだ騒動が終わり、高専にも落ち着いた空気が漂う頃、伏黒は保健室から自室に戻った。
体調は問題無し。
ただ、一度完全に底をついた呪力の戻りは不十分で、今日一日、自室で大人しくしていた。
完全回復まであと一日といったところだろうか。
日常生活に支障はないが、呪力が使えなければ授業に出たところで意味がない。
気持ちは焦るものの、ここで無理をすれば復帰が遅れるのは自明の理だ。
室内で出来るような軽いストレッチや筋トレをして、あとはベッドで本を読んで過ごす。

こんなに穏やかな一日を過ごすのは久しぶりだ。
本を置き、静かな夕暮れの空を窓越しに眺めた時。
隣室の虎杖が小鍋をもって部屋に現れた。

「昨日、消化に良いもの。って言ってたからさ。お粥作ってきたよ!」

小鍋をローテーブルの真ん中に置き、バタバタと出て行くと、すぐに自分用のお椀と匙を手に戻ってきた。
一緒に食べるつもりらしい。
「お前はそれじゃ足りねえだろ?」
「ちょっと前におやつ食べたばっかだし、お粥も沢山炊いたから充分」
それに、せっかく帰ってきたんだから一緒に食べたいじゃん?と、屈託なく笑いながら伏黒の台所から椀と匙を出し、伏黒の前に置くと、小鍋の蓋を開けた。
鱈と葱の粥がたっぷり入っている。
確かにこれは二人分だ。


虎杖は、楽しんでるだけなのか気遣っているのか、わかりにくいところがある。
無神経そうに見えるのに、相手が欲しい言葉をするりと口にする。
表情豊かに対抗戦のことを話しながら、元気よく食べる虎杖を横目で見ながら、伏黒はゆっくりと匙を動かす。
話はあまり頭にはいってこない。
だけど、虎杖の死を受け入れようとして苦しんだ日々が嘘のように、胸のつかえがとれている。

今のこの状況のほうが夢のようで、まるで現実感がない。

虎杖が死んだあと、何度もその場面を夢に見た。
繰り返し。
繰り返し。
その度に、嗚咽で目覚めた。
目が覚めて、夢だとわかり、だけどこれが現実なのだと再度息が詰まった。
どうすれば良かったのか。
死なせない選択があったのではないか?
そもそも杉澤第三高校でのあの時に、虎杖に近道を案内させなければ?
あるいは?
だけど、どう遡っても虎杖が今の状況になるか、自分も死んで、呪霊を祓えず、被害者が増えた最悪の未来しか見えない。

どちらにせよ、己の選択が1人の善人の人生を狂わせ、死なせたのだ。
これは、自分が生涯背負うべき業なのだと言い聞かせても、この胸の重さを消せない。
共にしたのはたったの2週間。
何を前にしても揺るがない善性が、伏黒には好ましかったのだと今は解る。


だがその善性こそが、虎杖を死に至らしめたのだから皮肉なものだ。

とっくに食べ終わった虎杖が、身振り手振りで交流戦の東堂の術式の面白さを語っている。
こうして見ていると、死んだ姿を見たのが嘘のようだ。
本当にただの夢だったような気すらして。

匙を置いて、虎杖の左手を取る。
「なに?どったの?」
虎杖は話を中断して怪訝そうに伏黒の顔を覗き込み、表情を引っ込めて黙る。
手相でも見るように掌を広げて、それに己の掌を重ねる。温かい皮膚の感触。
手を返して甲を眺めると皮膚は厚く、細かい擦り傷がかさぶたになっていた。節には殴りだこ。
「ボロッボロだな」
正直な感想を口にすると「えへへ」と照れるように笑って首筋に手をやる。
「俺は殴る蹴るしか出来ないからね。武器もあんま使えないし」
他もすげーよ、見る?冗談めかして袖を捲ろうとするのに頷く。
止められるだろうと思っていたのか、意外そうな顔をして、でも、ちょっと改まって左の肘上まで捲って見せる。
前腕を覆う黒ずんだ打撲痕。
「これはね、東堂のパンチもらったとこ、そのあとめっちゃくちゃ踏まれてさ、容赦ないんだもん。死ぬかと思った」
そりゃそうだろう。殺る気だったんだから。
袖を下ろし、後ろを向かせてパーカーの背中を捲る。
こっちはもっと酷い。赤と青の痣でまだらに染まっている。それから裂傷。なんでこいつピンピンしてんだ?普通のやつなら寝込んでる。
「家入さんに手当してもらえ」
「見た目は酷いかもだけど、もうあんま痛くないし、たいしたことないよ」
背中を下ろして、一瞬ためらってから腹側の布地に手をかける。
虎杖は伏黒の行動に戸惑いながらも、医者の診察時のように自らパーカーの裾を掴んで捲ってみせた。
背中よりは傷が少ない。
あのときに空いた穴の跡も全くない。
傷のあったあたりに手を当てる。
「きれいなもんだな」
「腹側って、わりとガードしやすいし、ってか、当たるとヤバいからね」
「そうじゃねぇよ」
「あー……そうね……」
伏黒は、虎杖の胸から脈打つ心臓が引き抜かれ、血管がちぎれるのを見た。
植込みに放られたそれは、虎杖の死体と一緒に回収されたが、今の虎杖を生かしている心臓は、あれとは別のものだ。
「えーと…なんか、ごめん?」
「謝んな……生きてて良かった」
聞かせるでもなく呟く。
「……ほんとは、まだ、お前が生きてる実感があんま湧かねぇ」
「……マジでごめん」
「謝んなっつってんだろ……この2ヶ月、ずっと後悔してた」

言うべきではないのかもしれない。
だけど、責任の所在をはっきりさせることで、少しは自分が背負えたら良いと思う。
「あのとき、俺がもっとうまくやれてたら…お前は普通に楽しくやってたんだろうなって。虎杖は、呪術師って柄じゃねぇし」
「えー…でも俺、前よか強くなったよ」
「そういうことじゃねぇよ。キャラつーか、性格のハナシだ馬鹿」
拳で軽く殴る振りをすれば、虎杖はキャーなんて言って頭を抱えるふりをする。
こんな軽いふざけ合いも、随分久しぶりだ。
それから虎杖の頭をぐりぐり撫でた。
手に触れる髪がしっとりしている。風呂の後、雑に拭いただけなのだろう。
犬みたいな感触に、胸のあたりがギュっと絞られる。
頭から耳を辿り、頬に触れそうになって躊躇い、指先で軽く摘む。
虎杖は元々大きな目を更に見開いて、笑いかけみたいな顔で固まっている。
「えーと……伏黒さん?」
「わり……俺も良くわかんねぇんだけど」
肩に手をかけて、己の胸元に引き寄せて、抱きしめる。
本当はここに居るべき人間じゃないのに、ここに居て、こうして生きているだけで、自分は救われているのだ。
矛盾でしかなくとも、それだけは確信できる。
「もう死ぬな」
「うん。そだね。指全部飲むまで頑張る」
「死なせねぇよ」
「それは……」
「無理とか言うな。そのために、俺は強くなる。強くなって、お前ん中の宿儺を祓ってやる」
「伏黒カッコイイね」
「人が真面目に話してんのに……」
「マジでそう思うよ。伏黒なら出来んのかも」

虎杖はそう言いながら、心が揺らいだ。
考えたくない、考えてはいけない望みを目の前に提示されてしまうと、手を伸ばしたくなる。
だけどそれは、選ぶわけにはいかない未来だ。
伏黒のスウェットに顔を押し付け、ぎゅっと目を瞑る。
しがみつくように背中に回した両腕が震えそうで、拳を握りしめた。
「そしたら俺、生きられんのかなぁ……伏黒……俺…死にたくないけど、なんで俺がって思うんだけど…俺のせいで人が死ぬのはもっと嫌で…」
普通に話したいのに震える声。
言葉が喉につかえる。
伏黒の手が、宥めるように虎杖の背中を往復している。
黙って話しをきいてくれている。
吐き出して良いのだと伝えてくる。
「強くなることだけ考えてると、ちょっと忘れてられんの……でもこないだ死んだ時さ…意識なくなるとき、思ってたよりずっと……」
それから言葉にするのを躊躇うように良い淀む。

呪言師じゃなくてもわかる。
言葉は呪いだ。
形のない気持ちを口に出せば真実になる。
でも、吐き出してしまいたい。
唇を噛み、逡巡の後、小さく息を吸って、食いしばる歯の間からようやく、その言葉を押し出す。

「怖かった」

これで本当に終わるのだと、二度と己を自覚することはないのだと思い知った、意識が消えるその瞬間。
闇に飲まれる、一秒にも満たない生と死の挾間。

本当の死を知覚したのだ。


伏黒は、奥歯を噛み、抱きしめる腕に力を込めた。
虎杖の胸から心臓が取り出された瞬間の恐怖。
死ぬとわかっていても戻ってくると信じていたのに、死に逝く姿を見たとたん、全身から血が引いて、物言わぬ身体を前に何もできず、思考と感情に帳が降りた。

虎杖の死を回避できる分岐点を探すように、毎日、同じ夢を見て、同じ結果に心が引き裂かれた。

泣き喚くほど子供ではないし、諦められるほど大人にもなれなかったから、2ヶ月間、同じところをぐるぐる回っていた。

湿った頭に鼻先を埋める。
抱き合ったまま、犬同士のじゃれ合いのように互いの額と頬をすりあわせる。
目の前にある唇に一瞬ためらい、互いを牽制するかのように見つめ合ったまま近付き、かさねる。
キスなんかしたことがない。
びっくりするほど柔らかくて、想像していたような甘さはない。
檸檬の味とどこかで読んだが、わずかに生姜が香った。
ふっと笑みがこぼれる。
以前、鍋料理を作った時も生姜のチューブを使い切っていた。
虎杖は生姜が好きなのかもしれない。
好きな食べ物すら知らない仲なのに、こんなにも欲している。
何度か唇を擦り合わせて、それから舌を滑り込ませると、腕の中の身体がびくりと跳ねた。
逃げるように奥に引っ込んだ舌を追うと、ガチガチと歯がぶつかる。
唇を離し、舌打ち。
「…って、えぁ…舌打ち?……そんな?」
湿った大きな目をめいっぱい開いて、それから赤く火照った顔でくしゃりと笑うと目尻に雫が浮いた。
「伏黒必死すぎな」
伏黒は憮然として、笑う顔を両手で挟んで捉えると、引っ張り上げて仰向ける。
「虎杖、舌出せ」
「ひた?…は?」
「べろ出せつってんの」
瞬間、ボッと、それこそ火がついたように耳まで真っ赤になって、うろうろと目を泳がせる。
さっきまでキスしてたのに今更何照れてんだ。
促すように唇を舐めると、目をぎゅっと閉じて、恐る恐るといった体で舌先をちろりと出した。
これなんか見たことあるな、リスとかハムスターとかそういった小動物の写真とか、女子向けなキャラクター商品とか。
そんなことを考えながら、申し訳程度に出されたそれを舐めた。
瞬間、ぶわっと毛が逆だった。
柔らかくて、ぬるりと濡れていて、甘い……のかもしれない。
衝動にかられて夢中になってそれを吸い上げ、舌の面全体で味わう。
じゅ、と唾液の泡立つ音。虎杖の乱れた呼吸音。
肉厚な舌がびくびくと震えながら、やがて伏黒に応えるように添う。
慌しい合間の荒い呼吸。
汗が沸いて頬を流れる。
互いの吐息を飲み、涎で顎が濡れて喉を伝っているのに拭うこともできない。
頭の芯がぼうっとする。
いつの間にか、二人とも口を大きく開けて互いの口腔を貪っていた。
抱き合う腕は相手を巻き締め、余計に息苦しいのに多幸感に酔う。
どくどくと血管に血が流れる音が、皮膚越しに伝わる。
息継ぎのように唇を離して頬をすり合わせる。
汗ばんだ首筋に顔を寄せる。

「ヤバい、生きてる」

出た言葉がこれだ。
語彙力が死んでる。
体中が熱い。

虎杖が、生きてる。

脈打つ頸動脈を舐めて、噛む。
「……っあ…」
虎杖の頭ががくりと後ろに揺れて、こぼれたかすれ声。
力が抜けて体勢を崩した熱い身体。
二人の身体はひとかたまりになって崩れ落ちた。


…………………………………………………
※虎杖は伏黒が生姜に合う料理が好きなの知ってるけど、伏黒は知られてることを知らないといね。って思いました。

願望夢対処

伏黒とセックスをする夢をみた。


男相手にエロいことするなんて考えたこともなかった。
それなのに、入れられてぐいぐい揺さぶられて気持ち良い。
内臓を押し上げられる圧迫感。
下腹の中で蠢く他人の熱。
肌の上を掌の感触が這う。
金縛りみたいに身体が動かなくて、奥まで押し込まれて身体が仰け反る。
内臓が口からはみ出そう。
死にそうなくらい苦しいのに気持ち良い。
蛍光灯で逆光の伏黒。
表情がよく見えないけど優しい顔をしている。

『いたどり』

名を呼ぼれる。
息ができない。
キスしてほしい。
伏黒の顔が近づく。

そして目が覚めた。

「………なんでだよ」
起き抜けにトイレに駆け込み、自己嫌悪にまみれながら片付けて、またベッドに戻る。
うつ伏せになり、亀の子みたいに手足を縮めて頭まで布団をかぶって唸る。
手を伸ばして枕元のスマホを確認すると、夜中の2時33分。
「そりゃキスしたけどさぁ」
キスしちゃった。
「伏黒、俺のこと好きなんかなぁ?」
うん。まぁ好きだとは思うよ。
それは、わかる。
キスするくらいだもんね。
自問自答にもならない。
俺も伏黒のことが好き。
良い奴だし、一緒に居て楽しいし、キス。しちゃったし。
ガッと熱くなった顔を枕に押し付け、唸る。
キスして抱き合って、床の上で互いの身体に触った。
友達同士でやらないようなことをした。
触れ合って、舌が腫れるくらい散々キスして、それから急に冷静になって、片付けもせず部屋に帰ってきてしまった。

まずったかな?
そもそも伏黒は療養中なのに、鍋とかいろいろ洗わずに置いてきちゃったの、どうしよう?
朝になったら取りに行けばいいか。
でもどんな顔したら良いのか悩む。

エロい夢見ちゃったし。

うぐぅううと唸って枕に顔を押し付けた。
好きで、キスして、身体もさわって、そしたら次はエッチすんのかな?

そう思った時にはスマホに手を出していた。

セックス
男同士
方法

フリックして検索ボタンを押す。
一番上に出てきたページを開いて閉じた。
「何やってんの俺!」
スマホを握りしめたまま頭を抱える。
検索とかしなくたってさ、フツーにケツとか無理でしょ?
俺だって伏黒のケツに入れてみたいとか思わんし。
てことは、伏黒も俺のケツに入れたいとは思わないよね?

夢の感覚を思い出して背筋が痺れる。
あの気持ち良さが本当なら、したいなと思う。

なんであんな夢見たのかな?
初めてキスしたせいで頭おかしくなった?
急に涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
手の甲で拭うけど、どんどん出てきて間に合わない。
布団の端に顔を押し付けて歯を食いしばる。
嗚咽がこみ上げるのを飲み込んだらしゃっくりが出た。
情緒がヤバいなって頭の片隅で冷静にわかるのに止められない。
何が悲しいのかも、もう全然わからん。
しゃくりあげながら泣いていると、手の中のスマホがピロンと鳴った。

ステータスバーに伏黒の名前。

すんすんと鼻をすすりながらスワイプする。

寝てるか?

の一文字。
いや寝てるんだったらこれ既読つかねーでしょ?って脳内ツッコミ入れながら。

起きてる

って入力して送信。
と、同時に既読がついて、すぐ部屋の扉がノックされた。

えーどうしよう。
めっちゃ泣いてるんですけど俺。
しゃっくり止まらんし。
何て言い訳したら良いの?

考えながら立ちあがって扉に向かい、開けると不機嫌顔の伏黒がスマホ片手に立っていた。
ずかずかと入ってきてベッドに座る。
隣をトントンとたたいて「ここ座れ」って、そこ俺のベッドなんですけど?
立ってても仕方ないので座る。
「なんで泣いてんだ?」
「ちょっ…と嫌な夢見っ…てさ」
さっきからしゃっくり止まんねーの。うけるね。って付け足す。
言いながら、ごめんなさい嘘です。って脳内で超早口で謝ってる。
でもお前とエロいことする夢見たとはさすがに言えないもん。
伏黒はぽそっと「そうか」と答えて、両手の指を組んで黙る。
沈黙の中、不規則にしゃっくりが飛び出してかなり気不味い。
なんて話しかけたら良いのか分からなくて、伏黒の手を横目で見る。
伏黒は、何事か考えるように指先を曲げたり開いたりしている。

その指は、白くて真っ直ぐで、すらっと長い。
術式で指を使うせいなのか、時々、指のストレッチをしているのを見たことがある。
それぞれの指を独立して動かせるから、ちょっとキモいけどすげーって思う。

「……ここ、壁薄いから」
「あー…ね」
天井を見上げる。
なるほど了解。
やっぱ優しいな伏黒は。
おれがぐずぐす泣いてんの聞こえて心配してくれたんだな。
「ありがとな、でも夢だったし、大丈夫」
「俺は、大丈夫じゃねぇ」
「え?何で?伏黒もなんか夢見た?」
「……ちげぇよ、こっちは全然眠れてねぇんだよ」
地獄の底から響くような低音ボイス。あれ?なんで?
「もしかして伏黒、怒ってんの?俺なんかした?」
鍋とか片付けないで帰ったからかな?でもそこまで怒ること?
「お前が、急に帰ったから」
「………っ…うん?」
「なんか、マズったかなって……キスとか…いろいろ」
「………あ…いや…それはぜんぜん……ダイジョブデス」
ガーっと音を立てて顔に血が昇る。
改まってそういう話しはかなり、恥ずかしい。
対して、伏黒は任務の説明してるみたいに淡々としている。
「考えてたら眠れねぇし、昼間休んでから疲れてなかったのもあるけど……そしたらお前泣いてんの聞こえたから、いっぺんちゃんと話したほうが良いと思った」
伏黒は座ったまま膝に肘を乗せ、上体を少し傾けてこっちを向いた。
じっと見つめる黒目がキュッと小さくなる。
「虎杖、俺は、お前が好きだ。だけど、お前がもし流されちまっただけなら、泣いてねぇでちゃんと言え」
人生初の告白を受けて、どう返事すれば良いのか混乱してるのに、しゃっくりしか出ない。
言いたくないこともあるんだけど、どこからどう話せば良いのかな?
「ゴメン、伏黒」
まず謝ると、伏黒の指がびくりと引きつった。
「さっき、つか昨日?その……あの後、急に帰ったのは、テンパっちゃっただけで……嫌だったとかでは……ないです」
しゃっくりが混じって話し辛い、耳に指突っ込むとかコップの水を向こう側から飲むとか、やれることやってみたいけどこのタイミングじゃ出来そうにない。
「……キ…キス…とかも……今まで考えたこと無かったけど、その……してたら伏黒のこと好き……なんだなって思ったし、触ったりとかも……ヨカッタデス……アリカトウゴザイマシタ」
耐えられなくて両手で顔を覆う。
なんなのこれどんな羞恥プレイ?めちゃくちゃ恥ずかしい。
隣でふっと笑う気配がして、俺の手と顔の間に指先が突っ込まれて、顔から手を剥がされる。
そのまま顔が近付いてキス。
軽く触れて離れていく伏黒の目が優しい。
ほっとする。
いやホント、こういう話題は慣れない。汗かいちゃった。
「それなら、嫌な夢で泣いてたのは、そのせいじゃないんだな?」
ぎくりとした。
恥ずか死にすぎて、もう嘘を続ける気力がない。
俺は開き直ってベッドの上で正座すると、頭を下げた。
「ごめん!ホントは嫌な夢とかは見てない」
「じゃあなんで泣いてたんだよ?」
伏黒の声にドスが混じってビビる。
だけどここまで来たら引くわけにはいかない。
「エロい夢見ましたっ!」
腹に力を入れ、気合い入れて大声で白状すると思ったより大きな声が出た。
「おまっ!声!」と伏黒が慌てて俺の口を手で塞ぐ。
5秒くらいそのまま固まり、誰かに聞かれなかったかと周囲の物音に耳をすましたけど、周囲はしんと静まりかえっている。
二人そろってほっと息をつき、伏黒は手をおろした。
「なんでエロい夢でベソかくんだよ」
ヒソヒソと小声で追求してくる。
「伏黒、あのさ、絶対怒んないでほしいんだけど……」
つられて小声になるので、内緒話のように伏黒の耳の側に寄る。
「……その……伏黒とする夢だったから」
ギョッとしたように伏黒の頭が後に引いて、今度は伏黒が両手で顔を覆って俯き、大きく息を吐いた。
ここまで言ったらもう怖いものはない。
全部話してしまった。

夢で、入れられて気持ち良かったこと。
伏黒のこと好きだけど、男のケツに入れたいとは思わないから、伏黒もそうだろうなと思ったら何故か泣けてきちゃったこと。
「……やっぱ引く?…ね?」
伏黒は微動だにしない。
30秒くらいの沈黙のあと、伏黒は顔を覆っていた手をおろし、スマホを手に取ると、すいすいと何か打ち込んで開いたサイトを俺の前に突き出した。
「お前これ、できるか?」

『肛門洗浄』
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目に飛び込んできたのは、それ。
中学の時に同じこと言われてパルクールの動画見せられたことあるけど、状況が同じでも内容がぜんぜん違う。
俺だって男同士でセックスするのに尻を洗うらしいとか、それくらいは知ってる。
具体的にはよく知らんけど。
「伏黒、おまえこういうの見んの?意外ってゆーか…」
「ちげーよ!殴んぞ!」
ぐわっと、拳を振り上げ、振り下ろす直前でやめる。
それから画面を閉じて、両手でスマホを持ったまま床を見つめている。
気まずい沈黙の中でしゃっくりが3回鳴った後、伏黒がようやく口を開いた。
「俺は、ほんとは昨日したいくらいだった…」
何を?とはさすがに聞けない。
「……けど、入れられるほうは身体の準備とか、あとの負担もあるって聞いたことあるから無理だなって」
ひゅく!っと、場違いなしゃっくりが響く。
「だから、お前がそういうこと分かってて、それでもしたいって思ってんなら、俺はしたい」
なんだこれ、とんでもない話しになってる気がする。
俺だって伏黒としてみたいなと思う。
伏黒のケツに入れるとかちょっと考えられないんだけど、って、あれ?そういうこと?
「もしかして伏黒は、俺のケツに入れるのとか有りなの?」
伏黒が床を見つめたまま頷く。
「……あ……そっ……か……」
えーと、どうしようこれは。
心臓が飛び出しそうなくらいどくどくいってる。
いやまぁ飛び出たことあるけどね、ってセルフツッコミしてる場合じゃない。
よく見ると伏黒の耳が赤くなってる。
「じゃ……じゃあ俺、頑張るから、その……よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、伏黒の手が頭をぽんと叩いてそのままぐりぐりと撫でる。
頭を上げると、無表情な伏黒の顔。
だけど、目が少し笑ってる。
いつもよりちょっと顔も赤いような気もする。
気恥ずかしいのは変わらないけど嬉しくなって、抱き着いてキスをして。
「じゃあ、今からすんの?」
って聞いたら頬をつままれた。
「馬鹿か、今日も授業あんだろ、それに、必要な物とかぜんぜん無ぇし」
あーそうね。
じゃあ金曜日かなぁ任務入らないと良いんだけど。
いつもなら考えないようなことを考えながら布団に入ると、当然のように伏黒も隣に潜り込んできた。
抱き合ったまま目を閉じると、それだけで気持ち良い。
うん、これなら金曜日まで待てるね。
そう言おうとしたらまたしゃっくりが出て、今度こそ伏黒が笑った。

渇望飢餓錯覚

この制服は喪服だ。

制服によく有る紺寄りの黒ではなく、墨色。
他人の死に立ち合い、己の死に備える。

これを身につけることは、常にその覚悟をするということだ。


八十八橋の呪霊と特級を各1体を祓い、受肉体を2人殺した。
1年3名で挑んだとしては誇れる戦果だ。

だが、どうにも気分は上がらなかった。

虎杖が指を飲んだことで始まった共振。
鳴りを潜めていた呪いの力の増大。

本来、これは3人で共有して高専に報告すべきここだろう。
いや、五条先生はもちろん、上の人たちは報告内容だけで気付くだろう。

虎杖を交えず、俺と釘崎だけで共有するのは不自然なのは分かっていた。
情報を伏せるとこに意味が無いということも。
今、知らせなくとも、この世界に関わり続ければ、いずれあいつも気付くだろうから。

呪術師は、呪いにまみれ、人の死に関わり続ける。

虎杖に呪術師の闇に浸ってほしくない。
何も知らない、根明な馬鹿でいてほしい。
今でもそう思うことがある。

しかし、それは絶対に叶わない。

逃れられない死の運命を受け入れ、処刑までの日々を笑顔で前向きに生きるあいつを、今の俺では助けることができない。

死なせたくない。
出来る事なら、何も知らない平穏な人生に戻してやりたいと思う。
その反面、側に居たい。居て欲しいと願ってしまう。

想いが通じている今なら尚更だ。


俺達一年三人は、ニ日間の休養が出された。
三人共傷だらけで散々だったから当然だ。
まだ学生の身分なのだから、基本的には健康的な学生生活が優先になる。

寝込むような状態でもないのでベッドで本を開いていたが、考えても仕方のないことが頭の端に引っかかって、目が文字の上を滑って頭に入ってこない。

虎杖……宿儺の受肉による共振。呪われた津美紀。
今の俺にはどうにもならない問題ばかりが積もっている。

寝たきりになった津美紀は、安全な病院で守られている。
それでももし、たとえば、宿儺の影響で津美紀の命が脅かされたなら、俺は虎杖の死刑を許容するのだろうか?

どちらかの命しか選べない時がきたら、俺は、それでも選べるのだろうか?

そろそろ寝ようかと本に栞を挟んだ時、小さく扉が叩かれ「伏黒」と控えめな呼び声がした。
時間は23:00を過ぎている。
早寝早起きの虎杖が起きているのは珍しい時間だ。
本を片手に扉を開けると、虎杖は頭から毛布を被って立っていた。
「何やってんだ、お前?」
半身引いて部屋に迎えいれる。
虎杖は毛布の端を引きずりながら黙って中に入り、突き当りのベッドまで行くと、床に膝をつき、崩れるように上半身をベッドに倒した。
「どっか具合でも悪いのか?」
今回、虎杖は術式の治療を受けていない。通常の傷の手当だけだった。
今になってどこか悪化したのかもしれない。
「虎杖?」
毛布の上から肩のあたりに手を置いて軽く揺すると「うーん」と唸る。
「おいっ!虎杖?」
「……ふしぐろぉ……」
頭を覆う毛布を捲ると、頭がもぞりとこちらを向いた。
血の気の引いた顔に涙目。
反射で舌打ちする。
「立て、保健室行くぞ」
「違う伏黒。そうじゃなくて」
口をへの字に曲げてもごもごと言い淀むと。再び顔をベッドに伏せた。
「……その……腹の……準備してみたら……なんか寒気すごくなってて……」
意味を理解するまで5秒かかった。
「っ!……はぁ?!」
一瞬で頭に血が昇り、手にした本の背で薄茶色の頭をチョップした。
スコンと良い音が鳴る。
「この特級馬鹿!なに一人で勝手してんだ!」
「だってせっかく休みもらったからさ!」
「ちげーだろ!休暇じゃねんだよ!休養!!身体労れって意味!」
「でもさー昼メシんときも伏黒元気そうだったし、良いかなって」
「だから一人で決めんなっつってんの!」
「そこまで怒る?!」
ショボショボと再び毛布を頭まで被って亀の子のようになった虎杖を見下ろして、ようやく冷静になった。
確かに怒鳴ることでも無かった。
認めたくはないが、半分は照れと、不意打ちでびっくりしたせいだ。
「怒鳴って悪かったな。身体、大丈夫か?」
「なんか……すげー寒い。しばらく布団に入ってたけどぜんぜん治んねーの。身体に力入んないし。やり方間違えたんかな?」
毛布の中に手を突っ込んで、虎杖の手を掴む。
確かに冷たい。
指を両手で挟んで擦ってみる。
しかし芯まで冷えているようで、これでは埒があかない。
「ベッド上がれ」
うん。と返事をして毛布ごとずるずるベッドに上がるのを手伝い、持ち込んだ毛布の上から更に布団を被せる。
家入さんを呼ぶべきかと思ったが止めた。
体調不良の原因はハッキリしてるけど、これはさすがに説明しづらい。
正攻法の治療は諦めて、引出しからワセリンを取り出し自分もベッドに上がる。
青い蓋を開け、指で多めにすくうと両手で挟んで温める。それから虎杖の左手を取って全体に馴染ませた。


指の付け根から指先、指先から付け根をゆっくりと圧をかけながら辿り、指の股を摘むように押す。
それから掌の骨と骨の間を伸ばすように指圧して、関節を一つずつ前後に曲げて伸ばす。
黙々と作業をしていると、冷えていた手に血流が戻ってきた。同時に、俺の苛々した気持ちも次第に収まって、落ち着いてくる。
一通りのマッサージで温まった手を布団の中に戻して、次は右手を取った。
虎杖は布団から顔の上半分だけ出して、物珍しそうに手元を見ている。
こうして大人しく口を閉ざしていると、いつもより子供っぽく見えた。


「お前、こんな冷えるまえに一旦やめるとか、なんか判断しろ。身体壊しちゃ意味ねぇだろ」
「なんか出来そうだと思ったんだよね。でもさ、やってみたら、なんかうまくいかなくて…」
時間かかっちゃった。結構難しいね。
えへへ、と笑う。
俺が部屋でダラダラしてる間、隣の部屋で一人頑張ってたのかと思うと、なんともいえない気持ちになる。

「一人で勝手すっからだろ?言ってくれりゃあ手伝ったのに」
「えええ?!無理!」
「なんでだよ?俺だって関係あんだろ?」
そりゃそうですけどーとモソモソ呟いている。
「だってそんなん……さすがにお見せできませんヨ……」
右手のマッサージも終わったが、そのまま両手で挟んで手の甲をさすった。
相変わらず傷だらけのゴツい手。
だけど、これを可愛い。放し難いと思うのだから、俺も相当重症だ。
「俺は、最初っから手伝うつもりだった」
身体に負担のかかることだ。虎杖一人に押し付けて自分は美味しいとこ取りなんて、そんなつもりはなかったのに。
こいつの短慮はどうしようもないけど、俺に対する好意の結果なのだと思うと、邪な想いにじわりと腹が熱くなる。
温めていた手を布団に戻してやり、立ち上がると、クローゼットの引き出しからドラッグストアの袋とタオルを取ってベッドに戻る。
袋からゴムとジェルを出して、フィルムを剥がし、外箱を開ける。
中身を枕元に放り、ゴミになったものをまとめてベッド横のゴミ箱に捨てると、布団を捲って虎杖の隣に潜り込んだ。
抱き寄せて、足先を触れ合わせる。
そこはまだ冷たい。
「すんの?」
なぜか声をひそめる虎杖に、抱く腕に力をこめて「する」と応える。
虎杖は犬のように俺の胸に顔をこすり付けて、くすくす笑うと「キンチョーすんね」と緊張感のないことを言う。
これ以上茶化させるとタイミングを逃しそうな気がして、顎を掴んで黙らせた。

キスは大分上手くできるようになった。
もう歯をぶつけることもないし、互いの呼吸に合わせて心地良いタイミングで舌を絡めて口腔を擽り、苦しくなる前に息を継いで、唇を舐める。
気持ち良い感触がずっと続いていく。
舌は、身体の中で最も敏感な器官なのだと何かの本で読んだことがある。
きっとそうなんだろう。
キスをしているだけで背筋を快感が走る。心拍が上昇し、身体が熱くなり、汗が吹き出す。
眼球の奥で血管が脈打っている。
虎杖のシャツの中に手を突っ込み、横腹から胸までを何度も往復するうちに、冷えた肌が少しだけ温かくなる。
質の良い筋肉は柔らかいというが、確かに虎杖の感触はすごく柔らかい。
悔しいけど、俺のは自分で触ってみても硬い。筋肉の質の改善ってどうすんだ?
身体を冷やした虎杖のシャツを脱がして良いのか迷いながら、結局脱がした。
それからウエストに手を滑りこませる。
掌の下で一瞬ビクリとしたものの、嫌がることもなく、背に回された手が俺のシャツを握る。
足の間に片膝を割り込ませると、兆しているのが腹に当たった。
虎杖が息を詰めた。俺も。
キスを止めて、胸を合わせたまま近い距離で見つめ合う。
このまま触っても良いのだろうか?
頭の芯がガンガン鳴ってる。
何て言って許可取れば良いのかわからない。
許可?
要るのか?
用意してくれたのに?
虎杖は息を切らしながら、何度か瞬きをすると、遠慮がちに口を開いた。
「え……と…ぱんつ脱ごっか?」
雰囲気も何もあったもんじゃない。
俺は軽く吹き出して目元に口付けた。
「いい、俺が脱がしたい」
「ええぇ……そういう方向?」
「ダメかよ?」
「ダメじゃないけど、そんじゃ電気消……」
「消さねーよ。したら見えねぇだろが」
えええ!と弱々しい悲鳴を上げて、虎杖は顔を覆った。
手からはみ出す顔が真っ赤だ。
可愛い。
「可愛いな」
つい声に出た。
こんなことを言うのは柄じゃないから自分でも引いたが、うわぁ……と恥ずかしげに縮こまる虎杖に気分が上がる。
「虎杖、おまえ、すげー可愛い」
追い打ちのように重ねて言うと、顔を覆う手の上からキスして、赤い頬を舐めて甘い匂いのする耳を噛んだ。
益々恥じらって逃げるように顔を振るのを唇で追いかけて甘噛みする。
苛虐衝動は持ち合わせていない筈なのに、今なら理解できる。
可愛い。苛めて困らせたい。
食べてしまいたい。
ぞわりと湧き上がる、空腹感にも似た衝動。
引き締まった腹筋を指先で辿り、臍の横を通ってその下へ。
腰から腿を撫でながら下着もろとも下衣を引き下ろし、抜き取る。
手早く自分も脱いで、着ていたものを床に落とすと、脚を掴んで開かせ、間に割り込んだ。
黄ばんた蛍光灯に晒された肢体を見下ろす。
標本のように整った身体。生命を主張して上下する腹部。張り詰めて震える性器。
その奥は、赤く腫れてびくびくと震えている。


俺に食わせるために、虎杖自身が用意した身体。

唾液が湧いてごくりと喉が鳴る。
暴走しそうな感情を宥めるためにゆっくりと息を吐き出した。
がっつきそうになる気持ちを抑える。
傷付けるわけにはいかない。


両腕で隠れた顔が見たくて手首を掴んで開き、正しい置き場所を教えるように、枕の横にぐっと押し付ける。
それからゆっくりと手を離す。
虎杖はそのまま動かなかった。

目を見開いて、困惑したような表情。
浅い呼吸を繰り返している。
顔どころか耳や首まで真っ赤だ。
それなのに好奇心が勝って、俺が次にどうするのかを注視している。

ジェルのボトルを取って中身を掌に出す。
安っぽい甘い匂い。
何度か握り込むとぐちゅりと泡立つ音がして、粘度を保ってこぼれたそれが、糸のように伸びて虎杖の腹に垂れた瞬間、ヒュ、と息を飲む。

濡れた手で硬くなった性器に触れてやると、腿がびくりと震える。軽く握りこんでジェルを移し、下から上に広げるように撫で上げると唇から深く湿った息が細くこぼれた。
他人の性器を手にするなんて、少し前まで考えたこともなかったが、触れているだけで自分のものにも響く。
虎杖の視線を受け止めながら、見せつけるように下肢を何度もゆっくりとなぞる。
脚の付けから、指先で鼠径部を上がる。湿り気を帯びた陰毛を擽り、張り詰めた睾丸を掌で柔らかく包む。
ゆっくりと揺らしてやると、虎杖の呼吸が不規則に変化した。
唇から僅かに覗く犬歯の先。震える舌先は濡れて、呼気が霞む。耐えるように両手を握りしめ、目を閉じて喉を晒す。
噛んでくれと誘われている。
引きつる首筋に吸い寄せられて身体ごと乗り上げ、誘われるままに噛む。
虎杖の喉の奥から声にならない音が長く、低く漏れた。
互いの素肌が触れて、ジェルで濡れた下腹が擦れる。
じゅくじゅくと泡立つ音。
「……っは……っ……」
そのまま身体を揺らし、互いの敏感な器官を擦り合わせる。
キスをする。
唇を舐めて顎先を噛む。
虎杖の左手を取って、互い手を重ねたまま昂ぶるものをまとめて掴んで、本能のままに強く摺り上げる。
息が上がる。
苦しい。
気持ち良い。
唾液ごと舌を吸い上げ、飲む。
俺と虎杖、二人の皮膚が触れ合ったままちぐはぐに揺れる。全身が性感帯になったみたいに皮膚からも快感が灯って全身に広がっていく。
「……あっ……ふしぐ……っ…」
虎杖の手が離れて俺の肩を掴んだ。
ベタベタに湿った指が食い込み肘まで痛覚が走るがそれにすら興奮する。
「まって……やばぃ………っ!…」
どくりと手の中が脈打ち膨れ上がり、決壊した。
腕の中でゆっくりと虎杖の身体が弛緩する。

紅潮した顔。
顰められた眉。
緩んだ唇。

ぞくりとする。
腕の中にある全てを眺めなから、欲望を吐き出す。
息が詰まり、下腹が痙攣する。
特有の生臭さとジェルの甘い匂いが混じってくらくらする。

焦点の合わない茶色の瞳を覗き込みながら唇を舐める。
欲を浴びた虎杖の腹を撫で、股の奥に指先を当てて、ゆっくり押し込む。
第一関節までするりと入って、そこから奥の窄まりにゆっくりと、指を上下に動かして、指の腹で面を擦るように入れていく。
うっ……と、虎杖の喉が閉まる。
大丈夫か?とか、そういったことを聞くつもりは無い。
駄目と言われてもどうせ止められないし、こいつだってそのつもりでいたんだろうから。
虎杖の両腕が俺の背にまわり、力が籠もる。
やはり痛みがあるのだろう。膝が内向きに倒れて爪先がぎゅっとちぢまった。
楽になってほしくてキスをする。
噛み締める奥歯の間に舌を割り込ませ、上顎を擽る。
頬の内側を舐めて舌先を噛んで、溜まった唾液を音を立てて吸い上げる。
そうしながら指を増やして締め付ける内側を解していく。
傷付けたくないし、少しでも楽に受け入れてほしいと思う。
だけど再び熱をもった俺のものはそろそろ限界で、焦る。
気持ちを宥めるように、指先の感覚に集中する。

何度かジェルを足しながら固い部分を押し伸ばしているうちに、虎杖の口から喘鳴にも似た喘ぎ声が漏れ始めていた。
縋っていたはずの両腕は、いつの間にか力を失ってシーツに落ちて、両脚もくたりと力を失い、時折びくりと引き攣るようにふるえる。
意識を飛ばしたのかと汗の浮いた額を撫でると、焦点の合わない目がゆっくりと瞬いて、笑んだ。
「ふしぐろ……これ…きもちーね…」
瞬間、ずくりと腰が重くなった。
腹の深いところから得体の知れないものが込み上げて、全身を支配される。
めちゃくちゃに犯して引き裂いて骨まで噛み砕いて俺だけのものにしたい。
ぐっと奥歯を噛み締めて衝動を踏みとどまる。
奥を探っていた指を引き抜き、両腕でしっかりと抱きしめて額にキスをする。
「虎杖、好きだ」
「うん」
「すげー好き」
頬を撫でて顔中をついばむ。
「なぁ……入れたい」
「うん」
「優しく出来ねーかもしんねぇけど」
「うん」
虎杖の腕が重そうに持ち上がり、俺の頭を撫でる、前髪をかきあげて耳の後ろを漉く。
「おれも……ふしぐろのこと……すげー好き」
だから、良いよ。
そう耳に落とされて、俺は許された。


ゴムを着けてジェルをたっぷり使ってから、虎杖の腿を大きく開かせて先を付ける。
縁が巻き込まれないように指先で押し開きながら、慎重に、ゆっくりと進める。
まだ少ししか入れていないのに、埋まった部分がきつく締め上げられて全部入るのか不安になる。
でも入れたい。
自分の口からもれる犬のような呼吸が忙しなく煩い。
いつの間にか涎が溢れて、虎杖の腹に滴り落ちた。
舌打ちをして腕で口元を拭う。
軽く前後に揺すりながら、少しずつ奥に。
硬く絞られた箇所を過ぎると、少し柔らかい部分に触れて、ずるりと一気に奥まで入る。
虎杖が呻いて、続けて咳き込む。
腹の中で絞られて焦る。
息を詰めてやり過ごすと、虎杖の腹を慰めるようにゆっくりとさすった。
鳩尾からまっすぐ下ろし、下腹を掌で覆い、筋肉の境目をじっくりと押さえる。

無防備に身体の内側を全て晒したままの姿を見下ろす。
皮膚は赤く染まり、汗と性液とジェルで濡れて、無駄のない筋肉の凹凸を強調している。
歯を食いしばり、両手でシーツを握りしめ、上体を捩って耐えている姿が卑猥だ。
呼吸をするたびに上下する腹。肋骨より下の部分は、この弾力のある肉に覆われたすぐその下に、内臓がある。
押せばそのまま重要な器官は押しつぶされるだろう。

その内臓の一端に、今、自分が繋がっている。

その事実が、たまらなく愛おしい。
虎杖の両膝の下に腕を掛け押し上げると、身体を倒し、弾力のある胸に額をつける。
体重をかけて深く抉る。
下にある胸が上がって、深く息が吐き出される。
波にのるようにゆったりと押して引く動作を繰り返すうちに、速度があがってゆく。
虎杖の中に溜まった水分が温まって緩んで、不規則に溢れる。
伸び上がって唇を合わせて、溢れて頬を伝う唾液を舐めて、口腔に溜まるものを吸い上げる。
どこも余さずひとつになっているのだという充実感。

たぶん錯覚なのだろうけれど。

それでも充分だった。
虎杖の背中とシーツの間に腕を差し込み、愛おしい身体を閉じ込め、あとは本能のままに貪った。
遠慮も気遣いもいらない。

だってこれは。
俺の身体なのだから。